●使用貸借契約につき、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したと認定した事例

最高裁 平成11年2月25日判決

事案の概要 1.昭和33年12月ころ、株式会社X(上告人)の代表取締役はAであり、Aの長男B及び2男Y(被上告人)は、いずれもXの取締役であった。
2.Aは、同月ころ、X所有の土地(以下「本件土地」という。)上に木造瓦葺き2階建ての本件建物(以下「本件建物」という。)を建築してYに取得させるとともに、本件土地を本件建物の敷地としてYに無償で使用させた。ここにXとYの間に本件建物所有を目的とする使用貸借契約が黙示に締結された(以下「本件使用貸借」という。)。
3.その後、A夫婦とYは、本件建物で同居していたが、Aは、昭和47年2月26日に死亡した。
4.Aの死後、Xの経営をめぐってBとYの利害が対立し、Yから株主総会決議不存在確認訴訟が提起され、仮処分により代表取締役職務代行者が選任された。右訴訟はYの勝訴で確定したが、Xの営業実務は右職務代行者選任中からBが担当してきた。
5.Yは、平成4年1月23日以降、Xの取締役の地位を喪失している。
6.本件建物は、いまだ朽廃には至っていない。
7.Bは、Xの所有地のうち本件土地に隣接する部分に自宅及びマンションを建築しているが、Yには、本件建物以外に居住すべきところがない。
8.Xには、本件土地の使用を必要とする特別の事情が生じてはいない。
9.株式会社であるXが、Yに対し、本件土地の所有権に基づいて、本件建物を収去して本件土地を明け渡すこと及び賃料相当損害金の支払を求めた。

最高裁の判断
1.土地の使用貸借において、民法597条2項ただし書所定の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきものである(最高裁昭和44年(オ)第375号同45年10月16日第2小法廷判決・裁判集民事101号77頁参照)。
2.本件使用貸借の目的は本件建物の所有にあるが、Yが昭和33年12月ころ本件使用貸借に基づいて本件土地の使用を始めてから原審口頭弁論終結の日である平成9年9月12日までに約38年8箇月の長年月を経過し、この間に、本件建物でYと同居していたAは死亡し、その後、Xの経営をめぐってBとYの利害が対立し、Yは、Xの取締役の地位を失い、本件使用貸借成立時と比べて貸主であるXと借主であるYの間の人的つながりの状況は著しく変化しており、これらは、使用収益をするのに足りるべき期間の経過を肯定するのに役立つ事情というべきである。
3.他方、原判決が挙げる事情のうち、本件建物がいまだ朽廃していないことは考慮すべき事情であるとはいえない。
4.そして、前記長年月の経過等の事情が認められる本件においては、Yには本件建物以外に居住するところがなく、また、Xには本件土地を使用する必要等特別の事情が生じていないというだけでは使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定する事情としては不十分であるといわざるを得ない。
5.そうすると、その他の事情を認定することなく、本件使用貸借において使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定した原審の判断は、民法597条2項ただし書の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

2019年01月28日